人と動物の関係学

[2013年7月] アニマル・セラピー #05

アニマル・セラピー乱舞

「疑問に思う事」

最近、少し「?」と思うような出来事に遭遇しました。ある首都圏の駅のコンコースで「セラピー犬」の育成のための募金活動をされている団体に出会ったのです。色々と質問をさせていただいたときに「アニマル・セラピスト」という言葉が登場し、少し驚いてしまいました。。
ご存知の方もおられるかもしれませんが、実は私は動物を人間の医療や福祉の現場で起用することを最初に提案し、今でも専門的な情報機関として国際的に学会等で認められている、米国のペットパートナーズ(旧デルタ協会)の公認インストラクターをしています。
1980年代の初頭から、同協会に関わってきているのでこの分野の進歩、問題点、課題等々にも深い関心を抱きながら教育活動を行ってきました。以前は、ペット活用療法と言う言葉が用いられていましたが、その後関係者らの間で「動物介在療法」(アニマル・アシステッド・セラピー)と「動物介在活動」(アニマル・アシステッド・アクティビティー)と言う専門用語が出来上がり、以降はこの二つの言葉が学会等で使われるようになってきたのです。

「アニマル・セラピスト」とは?

アニマル・セラピーとは、この両者どちらも指す曖昧な言葉としてメディア等が用いてきました。現場に出て行く動物と、その飼い主である人間のボランティアには、訪問対象者すなわち、現場施設の専門家の支持にしたがって行動することが求められます。考えてみれば当たり前のことです。自らが人間を扱う国家資格を持たない限り、動物を連れてくるボランティアはあくまでも素人です。訪問対象者の体や心の状況を扱う訓練を受けているわけではありません。それゆえに、動物を連れて訪問をするアニマル・セラピストとは一体どのような人のことを言うのか、いささか疑問に思いました。
セラピストを直訳すれば「療法士」です。理学療法士、作業療法士等々人間を扱う免許を持っているセラピストは沢山います。しかし、彼等は皆何年も専門的な勉強をし、さらには国家試験を受けてようやく現場の一年生になれるのです。その後、動物を使ったり道具を使ったりと、自らの作業範囲を広げていくことができるのです。人間を触るための基本教育を受けていない人間が、いきなり動物と触れ合いをさせることを学び、セラピストを名乗り、人間に介入することは果たして安全なのでしょうか?基本教育と言うのは、カルチャー・スクール的なカウンセリング講座のことではなく、医療関係者が何年間か受けなければならない基礎のことを言っているのです。少なくとも学会レベルではアニマル・セラピストと言う言葉は認められてはいません。

「ドッグ・セラピー」とは?

もう一つ最近の新聞記事で気になったことがあります。西日本で、老人施設などを運営するある法人が「ドッグ・セラピー」と言う言葉を用いていました。これは、学会的に言えば犬を用いた動物介在療法ではないのでしょうか?また、我が国初となっていましたが、私が知る限りにおいては、公益法人の日本動物病院福祉協会が行っている様々な施設を対象とした訪問や療法のプログラムであるCAPPは、1980年代から国内で広範囲行われています。何を持って日本初になってしまうのかよくわかりません。
これだけであはりませんが、タイトルにもあるようにアニマル・セラピーという魅力的な魔法の言葉に誘われて色々なものが浮上してきている今日この頃です。動物が人間の癒しに貢献することは間違いのないことですが、それを他者に「お届けする」となるとそこにはすでに専門的なシステムや認定方法、国際的に認められた基準やルールが何年も前から存在していることを忘れないでください。英語には「reinventing the wheel」という格言があります。「車輪を再発明する」と訳すのですが、すでにあるものを何度も何人もの人が「私こんなすごい物を作り上げました」と声を上げる現象を指すのです。なんだか人間って悲しいですね。

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