人と動物の関係学

[2007年7月] 子供と動物 #00

子供と動物

 子供と動物と言うと、人々はすぐに「愛護教育」という言葉を思い浮かべるようですが、その一点のみに集中して子供と動物の関係を語ることはできません。子供と動物の関係、あるいは「接点」を見る時には、一体何を求めるのかをまず考えておかなければならないのです。

動物愛護教育と動物介在教育

 まず一つは、前述したように、生命を大切にする心を育てるための動物愛護教育を、子供達に対してどのように実施すれば良いのか、という課題があります。最近ではこの点が話題にのぼることも多く、学校飼育動物の役割なども各方面から注目されているようです。しかし、教育の中では、生命尊重以外の目標を掲げて動物を活用することもあります。これがいわゆる動物介在教育なのです。Animal Assisted Education(AAE)と言われているこの分野は、愛護教育よりもはるかに広い範囲を網羅するものです。

 例えば、身近な野性の小動物の生息地を通して環境理解教育を行ったり、ボランティアとそのペット達の訪問を活用し、動物を集中のフォーカル・ポイントとして用いたり、トレーニングを非暴力的問題解決能力の取得に利用したりすることなど、動物は教育の現場で様々な機会を提供してくれるのです。

 さらにもう一つ考えなければならない接点は、生活上のそれでしょう。動物とともに生活をすることが、子供の発達や精神状態、その他の機能にどのような影響をもたらすのかは、とても重要な課題です。

 一言で子供と動物の関係と言っても、実はこのように様々な角度、又は視点から考えていかなければならないことは言うまでもありません。全てをごちゃまぜにして「動物と子供、生命の学習」などという美しいタイトルをつけてみても、何が何だかわからなくなってしまいそうです。

 では、それらの各接点を簡単に見てみましょう。

「原始の血」を育てることから始まる

 まず、愛護教育ですが、動物を大切にする、命を大切にする心を育てることが目的であることは言うまでもありません。しかし今一番問題になっているのは、それをどのようにして実施するか、ということです。「大事にしましょう」と言うよりも、まず「原始の血」に正直に反応する子供を育てることが大切なのではないでしょうか。子供は皆、生まれた時から同じ生命に反応する感受性を持っています。それは、かわいい、愛しい、というような感情ではなく、乳児がぜんまい仕掛のおもちゃよりも、生きた子猫などに自然と関心を向ける、自分と同じものを見わける感受性です。それがそのまま、他の生命を自らの環境のバロメーターとして役立てる能力へとつながってゆくのです。言いかえれば、周囲の動物が苦しんでいると、自分もその環境で居心地が悪い、と感じることができる子供を育ててゆくことがまず必要なのです。

 「共感」は、美しい心、慈愛の心を育てることで身についていくものではなく、むしろ、生物として子供が本来持っている感受性を"取り上げずに育ててゆく"ことで発達させてゆくものではないでしょうか。自分のペット、近所の動物、学校の動物、動物園などの動物と遭遇した時に、子供が「自分が不快だ」という気持になったなら、その現状を変えようとするでしょう。これこそが、生命尊重教育の出発点であると言えるのではないでしょうか。

"教材"としての動物介在教育

 これとは別に、教育の中では特定の目標に到達するために様々な教材が用いられますが、動物もまた、そのような役割を果たすことができるのです。

 例えば、落ち着きのない児童が、動物に対する関心ゆえに、長い時間一つの場所にとどまることができるようになることもあるでしょう。ボランティアと訪問犬に話しかけたり、犬を撫でたりしながら、通常は数分間でも一定の場所におちつくことのできない児童に、数十分の間決められた場所にとどまることの練習を重ねてゆくこともできます。また、動物間の違いを見せ、語りながら、人間の違いを受け入れる差別解消教育をすることもできるでしょう。これは動物を大切にすることを教育目標とした、愛護教育とは若干異なる動物介在教育(AAE)なのです。

大人は、動物が子供の発達に与える影響の大きさを知らなければならない

 そしてそれよりさらに広い範囲で、動物が子供の発達にどのような影響を与えるか、という課題があります。これに関しては、欧米ではすでに児童心理の専門家などが様々な調査研究を実施しています。中でも特に注目すべき効果の一つが、ペットと暮している子供がそうでない者とくらべ対人非言語的コミュニケーション能力に優れている、という点でしょう。他者に対する気配りができない人々が増えている、と言われる現代社会において、これはとても重要な意味を持つ事柄だと思われます。

 さらにスウェーデンの小児科学会や米国デトロイトのヘンリー・フォード病院などの報告では、乳幼児期にペットと生活をともにしている子供の方が、成長した後にアレルギーや喘息になる確率が低いと記されています。子供は動物から、心身ともに健康な生活を与えてもらえるということではないでしょうか。

 しかし、米国の研究者であるゲール・メルソン氏は、子供達が動物をどのように受け入れ、扱うかは、周囲の大人達の動物に対する態度によって多分に左右されると語っています。子供が動物から多大な恩恵を受けられるか否かは、実は大人社会のあり方にもよるのです。

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