人と動物の関係学

[2010年7月] 動物と社会 #03

農業動物の福祉に朗報?

人工肉開発の進歩

今年のはじめ、ヨーロッパで人工肉の開発が進んでいるというニュースを耳にし、驚きました。
オランダのアインホーフェン大学の研究所で、肉の開発チームが成功を収めたという発表があり、これは人間の医療でも行われている細胞の損傷を修復するための細胞研究と非常によく似ています。
アインホーフェン大学では、生きている豚の筋肉細胞を用いたそうです。カギとなっているのは「筋原細胞」という細胞で、この細胞こそが他の細胞に傷がついたりしたときに、その修復に活躍する要素だと言われています。生きた豚から取り出した筋肉細胞を培養液と合わせたところ、増殖が起こったのです。つまり、生きた豚から「少しお肉を拝借した」ところ、そこから肉組織を人工的に育てることができたのです。言い換えれば、生きた動物抜きでお肉が作れたということなのです。

産業動物たちにとっての朗報

これは食品産業にとって、実に画期的なことであり、又家畜そのものの定義を覆す研究でもあります。
まだ食肉に活用する段階まで研究は進んではいませんが、いずれは加工肉製品などに使えるようになると彼らは自信を持っています。動物実験にも代替法の開発が大きな変化をもたらすように、この人工培養肉が実用化されれば、家畜すなわち生きた動物の育成やと殺等の問題は大幅に軽減されるようになるのです。業界にとっては経済的な変化が否応なしにもたらされるでしょうが、産業動物たちにとってはこれ以上の朗報はありません。
オランダの研究は公的な助成金及び加工食品企業などの寄付によって推進されており、研究者たちは5年で実用化をさせるという目標も立てています。もしこれが実現すれば、色々な問題が解決に向かうでしょう。

開発がもたらすポジティブな可能性

例えば、今の地球環境においては温室効果ガスの2割程度が農業や畜産によってもたらされていると言われています。つまり、人工肉は動物の福祉問題にも大きく貢献し、なおかつ地球温暖化の防止策の一つにもなり得るのです。また最近の口蹄疫のような悲劇がなくなる時代がやってくるかもしれません。
一説には魚肉の人工培養実験も進んでいるそうです。また今回の研究は豚肉を用いていましたが、今後は牛肉や鶏肉などにも応用できる技術基盤ができることでしょう。クローン生物となると、やはり倫理の問題は避けて通れぬものとなりますが、肉だけを培養するのであれば動物福祉問題や倫理問題が少なくなるのではないかと考えます。
もちろんまだまだ予測出来ぬ色々な課題が浮上する可能性はありますが、農業動物の福祉が問題視されている現代において、この開発は、とてもポジティブな可能性を世界に提供してくれるのではないでしょうか。

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