人と動物の関係学

[2013年1月] 動物と社会 #19

ネパールのユキヒョウ

家畜とユキヒョウ

 アジア大陸の中央から南にかけて生息するユキヒョウは絶滅に危機にさらされていると言われています。この十数年の間にその生息数が約2割も減少したと報告されているのです。
しかし、ネパールとインドの国堺の山岳地帯においては、牛、羊、そして山羊などの家畜の放牧をしながら生計を立てている者も多く、ユキヒョウはそれらの家畜を襲う害獣としてみられていました。ユキヒョウに牛を殺された村人がその報復としてユキヒョウを殺すという悪循環が繰り返されてきたのです。この地域では密猟者がユキヒョウを狙うことはあまりなく、むしろ前述したような「家畜を守る」という理由で狩りが行われてきたそうです。そのために近年はユキヒョウの生息数を維持するための対策として地域の住民たちに補償制度を提供することが考案されその効果が期待されています。

ユキヒョウ保護システム

 ユキヒョウは全世界で現在4,000から6,000頭の個体が生息していると言われていますが、ネパールには300から500頭しかいないと推測されています。海抜5,000~6,000メートルの高地にすむこれらのユキヒョウは「マウンテン・ゴースト」(山の亡霊)と言われるほど希少でありめったの遭遇することはありません。人間を襲うことはまれでありネパールではそのような事例はないと言われています。
しかし、牛、羊、ヤギなどの家畜は彼等の好物であり、それゆえに家畜の所有者たちには目の敵にされているのです。ユキヒョウ自体は名前はともかくとして、実はヒョウの近い親戚ではありません。むしろ、遺伝子的にはトラに近いと言われています。この希少動物を守るために4年前にカンチェンジュンガ保護区域ユキヒョウ補償計画なるものが発足しました。基本的には牛、羊、そして山羊の3種類の家畜に対するユキヒョウ被害保険のようなシステムであり、その創設以来現在までに約200頭の家畜に対する補償金が支払われています。家畜被害の確認を含め運営は地元の住民にまかされています。この保険制度はチューリッヒ大学が提供した120万ルピーの寄付金で創設されました。地元の住民は家畜被害の確認作業以外にもユキヒョウの足跡、糞等々の観察も実施しており、彼等の報告によると個体数は増加傾向にあるそうです。
昨年のカトマンズ国際映画祭ではWWFのネパール支部により、このユキヒョウ保護システムに関するドキュメンタリーが出品されました。地元民のインタビューを主体とした記録映画です。ある地元の家畜所有者は最近では人々がユキヒョウの絶滅の危機にさらされているという現状を理解し始めているとり語っていました。地元全体がユキヒョウに対してより寛容になっているということです。

カンチェンジュンガの期待

 カンチェンジュンガはネパール中央の北部に位置するアンナプルナと比べると観光客があまり来ない地域です。アンナプルナには年間7万人を超える来訪者がいる中でカンチェンジュンガはトレッキングに数100名が訪れるだけ、それを変えてくれるかもしれぬのがユキヒョウの個体数の復活であると考える人も少なくありません。観光客がユキヒョウの写真を撮りそれが外部に出ればより多くの人が訪れるに違いないと考えているのです。それが地域全体にとって良いかどうかは分かりませんが少なくとも地元民の期待が高まればユキヒョウを守ろうという気持ちもより向上するでしょう。

課題への取り組み

 今、全世界で絶滅の危機に瀕している動植物が数え切れぬ程ある中で、このような事例は新たなる取り組みの必要性を示しています。ただ守るのではなく、また、狩猟や取引を禁止する/取り締まるだけではなくその品種を抱える地元の士気をどのように高めていくか、これが枢要なのではと感じずにはいられません。我が国においてもトキを守るために農薬の使用が制限されることで困っているという農家があるそうです。何とか同じ地域に住む生命体すべてが幸せになる方法を考える、それが我々に出された新年の課題かもしれません。

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