
ペットの高齢化につれて、非常に歳をとったワンちゃんが増えてきました。これらのワンちゃんの中には人の認知症と同じような症状が見られることがあり、時としてそれが飼い主さんにとって大きな問題となることがあります。認知症は予防が最も大切ですが、なってしまったワンちゃんに対してはあまり神経質にならず、さまざまな症状に応じて正しい対処を行っていきましょう。
裏に住んでいるおじいちゃん犬、この間僕が遊びに行っても上の空でぼーっとしていたよ。僕が誰だかわからなかったみたい。しばらくしたらようやく気がついてくれたけど、どうしたのかな、何か病気なのかな。獣医師の先生に聞いてみよう。
前回、ワンちゃんも歳をとるとさまざまなしぐさの変化が見られるようになることはお話しました。動きが鈍くなったり、視覚や聴覚などが鈍ってきたりといった変化はほとんどの高齢犬で認められますが、中には感情表現が失われたり、今までできていた躾ができなくなるなど、脳の障害による症状が見られるようになる場合もあります。人と同じように認知症がワンちゃんでも見られるのです。ワンちゃんの場合、認知症になると次のような症状が見られ、それに対して一つ一つ対応していく必要があります。
ワンちゃんの認知症の特徴として、同じ場所を円を描くようにぐるぐると歩き回る、という行動があります。高齢犬で足腰も衰えていますから、とぼとぼとしか歩くことはできませんが、目的もなく何時間でもひたすら前に進もうとします。そして何かの拍子で部屋の角にぶつかったり、物のすき間に入ってしまうと、方向転換や後退することができないため、身動きが取れなくなって助けを求めて大声で鳴くこともしばしばあります。歩くことを無理矢理止めさせることはなかなか難しいことですし、止めさせたとしても大きな声で鳴きだすため、このような子の場合に最も良い方法は、気が済むまで一人で歩くことのできる施設を作ってあげることです。お風呂マットのようなある程度強度があり、なおかつぶつかっても平気な柔らかい板状のものをつなぎ合わせて大きな円形のサークルを作り、その中をサークルに沿ってぐるぐると歩かせるようにするのです。そうするとぶつかる場所がないため、ワンちゃんは気が済むまで歩くことができ、歩き疲れればそのまま眠ってしまうでしょう。小さなワンちゃんの場合は子供用の円形ビニールプールなどを使ってもいいでしょう。
通常、歳をとってくると食欲は若い頃に比べてなくなってくるものですが、認知症になるとあげたらあげただけ食べるようになります。若い頃は好き嫌いのあった子でさえ何でもばくばくと食べるようになることもあります。しかし、食べても食べても太ることはあまりありませんし、食べ過ぎておなかを壊すこともめったにありません。食べてもすぐに欲しがる子の場合は1日の食事量は変えずに食事回数だけを増やすようにしてみましょう。
認知症になると昼夜が逆転し、昼間は寝てばかりいるのに夜になるとずっと起きていていろいろなことをするようになります。夜中に鳴き続けたり、歩き回ったりするようになるため、飼い主さんにとっては非常にストレスになってしまうこともあります。
昼夜が逆転してしまっている子に対してはなるべく昼間に起こし体を動かしておくことが大切です。こまめに声をかけて寝かさないようにして、なるべく人が構って運動をさせたり刺激を与えるようにしましょう。あまり暑いとき以外は、日中なるべく日光を浴びさせるようにすることも体内時計を正常に戻す助けとなります。
認知症になるといろいろなことを忘れてしまったり、今まできちんとできていた躾ができなくなってしまうことがあります。今まで学習した行動ができなくなってしまったり、飼い主さんのことや自分の名前さえ忘れてしまうことがあります。今までトイレの失敗をしなかった子がいろいろな場所で粗相するようになってしまうこともあります。これらの子に対しては植物由来で安心な消毒剤や消臭剤を使って常に環境を清潔に保つ努力が必要となります。場合によってはペット用オムツを使用することによって飼い主さんの介護が楽になることもあります。
認知症の研究は始まったばかりですので、はっきりとした原因はまだわかっていません。しかしながら、ワンちゃんにも人のアルツハイマー症と同じような脳の実質的な変化が見られることが分かっています。特定の犬種に認知症が多いことから遺伝的な素因があるといわれており、そのほかにも不飽和脂肪酸などのある種の栄養や、飼育環境なども認知症と関連性があるといわれています。
人の場合と同様、認知症は放っておくとどんどん進行してしまい、治すことは今の医学では困難です。しかし、飼育管理によって症状の進行を遅らせたり、発症を予防することはある程度可能であるといわれています。
認知症の予防には精神的な刺激がとても大切であるといわれています。毎日の散歩や外出は好奇心を刺激させることができます。また、一緒に遊び簡単な躾の動作をすることによって退屈をさせない生活というのも予防にはとても大切です。
さらに毎日の食事を抗酸化栄養素と呼ばれる老化防止作用を持つ成分を含んだ食事に切り替えたり、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)など、オメガ3脂肪酸と呼ばれる老化防止に役立つサプリメントを与えるのも大切な予防方法の1つです。
ワンちゃんの認知症は飼い主さんとのコミュニケーションが少なく、毎日の生活が単調な子のほうがなりやすい、ともいわれています。普段から基本的な訓練をしてたくさん褒められたり、人と共に行動することはワンちゃんにとってよい脳の刺激となり、認知症予防となります。サプリメントなどを使って普段から認知症にならないようにこころがけ、なってしまってからはペットにとっても飼い主さんにとってもストレスのない生活を送る方法について考えていくようにしましょう。
おじいちゃん犬が僕のことを忘れちゃったら悲しいから、僕、もっとしょっちゅう遊びにいって、たくさんお話するようにしようっと。歳をとってもいつまでも元気でいて欲しいからね。